私の道しるべ私の道しるべ

失敗から学び、
成長する

INTERVIEW

美容業界は一般企業と比べると労働時間が長く、低賃金であるなどの理由から、離職率が高い傾向にあります。もっと美容師が働きやすく、仕事を続けられるような環境を作りたい。そのためには美容室の価値をより高める事業運営や人材教育、デザイン作りが重要だと考えています。技術力と人間力の両方を向上させるためにはどういうことが必要なのかを常に考え、定期的にスタッフミーティングや研修会を開催。自分がこれまでの経験から学んできたことをサロンワークに例えながら伝えるなど、日々模索をしながらスタッフ一人ひとりの成長をサポートするべく取り組んでいます。

お客様を喜ばせて、キラキラさせる仕事

美容師になろうと思ったのは高校生の頃です。バンド活動をしていたのですが、卒業後は東京に出るという先輩たちが多く、その影響からとにかく自分も東京に出たいと思うようになりました。自営業をしていた父親から「音楽では食べていけない」と反対され、じゃあ何をやろうかと考えたときに浮かんだのが美容師という仕事でした。子どもの頃から自分のくせ毛にコンプレックスを持っていたのですが、はじめてストレートパーマをかけた時に、髪がさらさらになったことが本当にうれしくて。その時の気持ちは今でも覚えています。アレンジをしたり、色を変えたりするのも好きでした。上京して美容学校で学んだ後、都内の低価格サロンから美容師としてのキャリアをスタートしました。

一日中路上でチラシ配りをして集客するなど地道な下積み生活を送った後、24歳で老舗サロンに移りました。以降のキャリアではスタイリストとしてだけではなく、店舗運営や人材教育など、経営側としてもさまざまな経験をさせていただきました。しかし、すべてが順調だったかというとそうではなく。振り返ってみても本当に数多くの失敗を繰り返してきたと思います。自分の認識が甘かったり、知識や経験が足りなかったり。常に結果を求められるプレッシャーや労働時間の長さも加わって、精神的にも経済的にもつらくなった時期がありました。その経験が今、美容師を一生続けられる環境を作りたいと取り組む原動力の一つになっています。

現職の代表就任を打診されたのは今から8年前のことです。埼玉にある会社で、美容部門の業績があまり良くないので一緒にやってもらえないかと。美容師としてさらなる知識を得たいという気持ちはあったものの、なかなか決断することができませんでした。代表になることが自分にとって本当に良いことなのかどうか、答えが出なかった。また、その時は発展志向のオーナーのもとで、SNSや撮影、集客、人事関連などを任され、業績も上がり、バランスよく働けていたこともあって、そこで培ったものを捨てて一から作り直せるのかという不安もありました。依頼された美容部門の全店舗を回ってみたところ、確かにうまく機能していないと感じたのですが、とてもピュアなスタッフが多かったんですね。美容が好きで、お客様のことを考えて一生懸命にやっていた。そこで改めて、この仕事はお客様を喜ばせて、キラキラさせる仕事なんだと気付くことができました。そういう仕事ができる美容師を育成したい。1年をかけてその答えにたどりつき、代表を引き受けました。

『生涯一美容師』の道を作り、恩返しをする

代表に就任してからの3年はとても厳しかったです。中に入ったらどうしても結果を出すことを求められる。スタッフともめて溝ができることが不安で、大きなプレッシャーを感じていました。美容師として東京で結果を出してきましたが、そのやり方ができるのは僕しかいない。自分がやろうと思ったことを、とにかく無心にやり続けました。会社に泊まり込んで対策を考え、現場に行ってスタッフ一人ひとりと面談をし、今どんな状態なのか把握することを繰り返して、ようやく運営の形が整ったのは5年がたった頃です。スタッフの数が当時はまだ少なく、集客と教育をうまく両立することができたのもありますが、みんなが僕を信じてくれたことが一番大きかった。やるしかないと言って、やってくれた。スタッフには本当に感謝しています。今の自分があるのは、彼ら彼女らが支えてくれたおかげです。

そこから、美容師として働き続けることができる組織体系を作ってスタッフに恩返しがしたい、美容を通して自分の道を自分で決めて、切り開いていけるような組織にしたいと強く思うようになりました。そのためには、経済的に不安がなく、時間にも心にも余裕があり、何より学ぶことができる環境を作ってあげることが一番だと考えました。技術力の向上はもちろん、人間的な優しさ、温かさを持つことの大切さについて、ミーティングや研修などの機会を設けて伝えるようにしています。自分に関わる人たちがいつも笑顔でいられるような人間であれば、生涯一美容師として、しっかりとした道を選び、歩んでいけると思うからです。都内で働いていたころはとにかく集客することに必死でしたが、今はスタッフ一人ひとりの技術的・人間的成長がより多くのお客様の喜びにつながっていくのだと思っています。

若い頃は「自分のやり方で自分のやりたいようにやる!」という信念のもとに行動していましたが、いざ人生の岐路で迷ったときに、何を基準にすればいいかわからなくなってしまったんですね。さまざまな経験を経た今では、「感謝」「良心」「直感」の3つを自分の信念として行動しています。特に、物事の判断に迫られたときは「自分が良いことをしているかどうか」という基準で選択すると、大きな間違いにはならないという実感がありますね。今後もこの3つを心に置いて経営を続けていきたいと考えています。いろいろな失敗を繰り返してきたからこそ感覚が研ぎ澄まされて、人を大切に思えたり、自分ひとりでやっているのではないと思えたり。経験を経営に還元できていると感じます。まだまだ足りないところがありますので、それを学びつつ、これからも時代に合わせた挑戦を続けていきたいと思います。